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よみがえれ刀

連載 「よみがえれ刀」 第3回

 豊後刀を作った刀鍛冶(かじ)の里があったとされる、大分市の高田地区を歩いた。大野川と乙津川に挟まれたエリアで「琵琶の洲(す)」と呼ばれる中州だ。

 地区の一角に小さな墓地があり、江戸時代の寛政年間に建立されたと言われる刀鍛冶の供養塔があった。「刀匠 紀新太夫行平(きのしんだいふゆきひら)之墓」と彫られている。平安~鎌倉時代に活動した豊後最高峰の刀鍛冶の名だ。代表作の一つ、細川家に伝わる「古今伝授の太刀」は国宝に指定されている。

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豊後刀を作った刀鍛冶らが祖と仰いだ行平の墓。江戸時代に建てられた=大分市の高田地区

 供養塔は、行平の没後5百年以上経って建てられたものらしく、行平が実際にここで没したわけではない。しかし刀鍛冶らは行平を祖と仰ぎ、尊んでいたようだ。

 行平は謎に包まれている。国の重要文化財の「銘豊後国行平作」(東京国立博物館所蔵)や、皇位継承順位1位の皇嗣に伝えられる「豊後国行平御太刀」など、行平銘の刀剣が現存するので、豊後の刀鍛冶だったのは間違いないと思われる。

 断片的に伝わる行平の人生は、波瀾(はらん)万丈だ。

 「役人だった」「人を殺した…

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